COLUMN

INTERVIEW

2022.09.15

現役弁護士に聞く 『女性社外取締役の役割』とは何か【弁護士・飯島奈絵 氏インタビュー】


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世界から遅れを取りながらも、日本の女性活用促進は少しずつ進んでいる。世界経済フォーラムが発表した2022年のGGIランキングでは、前年の120位から116位にランクアップしているのだ。こうした客観的なデータからも、女性が活躍する場が広がっていると考えてよいだろう。

今回は、女性社外取締役を迎え入れたいと考えている企業や、社外取締役として活躍したいと考えているビジネスパーソンに向けて、現役弁護士であり社外取締役としても活躍されている飯島 奈絵先生(以下、飯島先生)のインタビューをお届けする。企業における女性社外取締役の役割とは何か?を中心に話を伺った。

飯島 奈絵 弁護士

日本・ニューヨーク州弁護士。1994年より弁護士としてのキャリアをスタート。2003年6月よりナビタス株式会社の社外監査役に就任し、その後社外取締役になる。現在は株式会社大阪チタニウムテクノロジーズ、関西みらい銀行、大倉工業株式会社、NTT西日本にて女性社外取締役・社外監査役を務めている。

インタビュー

飯島先生、今回はお時間をいただきありがとうございます。早速ですが、社外取締役・監査役の選出パターンとしてはどのようなケースが多いですか。

サーチ・ファームからのお声かけ、知己の弁護士、公認会計士からご連絡をいただき、面接を経て選出されることが多いです。

現在、社外役員に就任されている会社におけるコミットメントはどの程度でしょうか。

初めて社外役員に就任したナビタスでは、会社全体の組織改革、業務拡大に関与し、現地法人設立時には現地にも出かけました。長年、社外役員を務める中、代表者のサクセッションプランにも関与しました。

現在、社外役員を務める先では、月1回の取締役会、監査等委員会が必須ですが、それ以外にコンプライアンス委員会、中期経営計画検討会、代表取締役との意見交換会、社外役員間の意見交換会等があります。

この他、常勤監査役が出席する人事部や事業部からの月次の報告会には極力出席するようにしていますし、事業部や支店、子会社等への往査も都合がつく限り、同行しています。オンライン会議となり、移動時間が無くなったので、様々な会議に出席しやすくなりました。他方、工場の往査等、現場に行って初めてわかることもあり、宿泊を伴う出張もあります。

新任の会社ではググってもヒットしない社内用語もあり、わからないことはどんどんメモして、聞くようにしています。

日本企業における女性社外役員の役割について、どのようにお考えですか。

まず、取締役会における女性社外役員の質問力があると思います。均質的な組織に比べ、多様性のある組織の方がリスク対応力、イノベーション創出力が高いといわれます。まさに、社外役員の役割は、社内の均質的な視点とは違う視点から眺め、質問し、リスクをあぶりだすことです。中でも女性社外役員は、オールドボーイズクラブに属さないマイノリティーだからこそ、社内の議論や思惑に忖度なしに質問をすることが出来るかと思います。切り込んだ質問でも、ソフトに上手に言えることも女性社外役員の特質です。

特に人事対応やコンプライアンスにおいて、女性社外役員が取締役会に入り、臆さず意見をいう意義は大きいと思います。女性に理解があるつもりでもアンコンシャスバイアスはありえ、また、出産育児経験があるからこそ言える意見があります。

特に人事対応やコンプライアンスにおいて、女性社外役員が取締役会に入り、臆さず意見をいう意義は大きいと思います。女性に理解があるつもりでもアンコンシャスバイアスはありえ、また、出産育児経験があるからこそ言える意見があります。

コンプライアンスの強化の他、女性社外取締役として大切なこととは何でしょうか。

忖度せずに、おかしいものはおかしいといえる女性社外役員がいる会社の方が、コンプライアンス違反がおこりにくいといわれます。

セクハラ対応において女性が役員に入っている意義の大きさは自明ですが、パワハラ対応においてもマイノリティーとして悔しい思いをした経験のある女性が役員に入っている意義はあります。女性最高裁裁判官から、男性の最高裁裁判官はエリート街道を順風満帆に生きてきた人ばかりで、被差別者の悔しさ、悲しさ、育児と仕事の両立の苦労等をまったく経験したことがないことに気づき愕然とした、被差別体験のある女性が最高裁裁判官に入る意義は大きいと思っていると伺ったことがあります。これは女性役員にも当てはまる話だと思います。

「男性育休取得率100%」の内訳を聞くと、お子さんが誕生した男性社員全員が育休を取得したという意味では100%であるものの、育休日数は1,2日が多いと聞き、せめて5日取り、24時間3時間おきの授乳を経験する意義を説いたことがありました。

予測困難・意思疎通困難な乳児の対応は、イマジネーションを豊かに働かせながら解決法を推論する極めて高度な作業であり、「未知のものに対するイメージや判断力が常に求められる最高の修練期間」ともいえ、育休取得経験者の方が仕事のパフォーマンスが高いのであり、「育児休業」ではなく、「育児留学」とか「育児修行」と捉えるべきとの考えがあります。そういった考えを会社にトップに伝え、改革を促すことも女性社外役員の役割であるものと存じます。

最後に、社外取締役や社外監査役の“やりがい”についてお聞かせください。

弁護士として企業法務に長年関与してまいりましたが、リーガルな助言にとどまらず、社外取締役・社外監査役として、取締役会にて発言し、微力ながら会社の意思決定に影響出来ることはとてつもなくやりがいがあります。

その分、責任も重く、大変な業務ですが、女性が役員に入ることは、従業員、取引先、株主等、様々なステークホルダーにとって大きな意義がありますので、会社様には女性を積極的に役員に入れていただくことを強く求めると共に、女性役員候補者として声がかかったら、是非、前向に取り組んでいただけたらと思います。

飯島先生、本日はありがとうございました。

まとめ

「IQ(知能指数)に性差はないが、EQ(心の知能指数)は女性の方が高い」というのは、昨今よく言われていることだ。このEQの高さこそが、女性が社外取締役として活躍するベースとなり、企業が女性社外取締役に強く期待しているところからもしれない。

今回のインタビューを通じて、飯島先生は女性社外取締役の良いロールモデルであると改めて実感した。女性社外取締役の迎え入れを検討している企業は、飯島先生のような人材を中心に採用検討を行うと同時に、女性社外取締役に期待する役割について整理しておく必要があると言える。

女性社外取締役の採用を、単なる「多様性を対外的にアピールするための女性採用」として終わらせないことが、企業と女性社外取締役の双方にとって成長する起爆剤になるだろう。