COLUMN

INTERVIEW

2023.05.08

社外取締役の責任と覚悟 企業価値向上にどれだけ貢献できるか                    


企業が社会にどれだけ貢献できているか、また経営的にもバランスが取れているか、この両輪を監督するのが社外取締役の役割。しかし本当にそのように機能しているのでしょうか。独立性の高い社外取締役の存在は今後ますます重要です。そこで今回は、公認会計士(日本、米国)税理士、グローバルプロフェッショナルパートナーズ代表取締役社長、木下俊男氏に「社外取締役の責任と覚悟」をテーマにお話を伺いました。

<木下俊男氏 プロフィール>

公認会計士税理士・米国公認会計士(NY州・CA州)。クーパースアンドライブランドジャパン(現、あらた監査法人)へ入所。1985年に渡米し米国クーパースアンドライブランド(現、PricewaterhouseCoopers /PwC)ニューヨーク本部事務所全米統括パートナーを歴任。2005年に帰国後は日本公認会計士協会専務理事、パナソニック株式会社社外監査役、みずほ銀行社外取締役等を歴任。現在はグローバルプロフェッショナルパートナーズ代表取締役社長、株式会社タチエス 社外取締役、デンカ株式会社 社外取締役(監査等委員)、グローバル企業の顧問などを務める。

――数々の企業で社外取締役としてご活躍されている木下さんからみて、社外取締役の環境として一番の課題はどこにあるのでしょうか

社外取締役を取り囲む環境で改善すべきところはいろいろありますが、最終的には社外取締役を「誰が選ぶか」が重要なポイントなのかもしれません。社外取締役に就任した会社の社長が気に入らないと思ったら、来年の株主総会に上程しなければいいわけです。いわゆる「うるさすぎる」社外取締役を排除する企業は実際に存在します。法定の指名委員会を設置してない企業が極めて少ないのはそれが理由かと思います。指名委員会は社長が入れない、もしくは入ったとしても議長になれないので、人事権を奪われたと思うわけです。とはいっても、コーポレートガバナンスには沿う必要があるので、指名諮問委員会を任意でつくる、これが大半です。指名諮問委員会というのは、諮問されたことに対して議論する場で、諮問するのは誰かというと、社長です。つまり、社長の匙加減次第というのが現状で、それをどう突破するか、が課題なのかもしれません。

*参考資料:株式会社東京証券取引所による「東証上場会社における独立社外取締役の選任状況及び指名委員会・報酬委員会の設置状況 2022年8月3日」より

――このような現状から外国の機関投資家には日本企業がどのように映っていると思いますか

残念ながら外国人機関投資家たちは日本企業に“期待感”を抱いていないのが本音でしょうね、グローバル企業もどんどん減ってきていますし。これまで以上にディスクロジャーしてれば、それはそれでOKで、株価や経済が低迷している日本企業に投資をして本当にいいの? 何かよい未来がある? みたいな感覚だと思います。外国人投資家は日本企業のデジタルトランスフォーメーションも期待していないし、仮にできてもメリットがない。なんともさみしいことですね。

――日本の上場企業の経営者の方々は、マネジメントにおける変革がない状態に危機感を持っていると思いますか

これだけ経済の低迷が続いているので、危機感はあると思います。株主総会に出席すると投資家から「なんで当社は利益が出ているのに株価が上がってないのか、I Rはきちんとやっているのか」と質問が飛んできます。そうすると「株価は私たちにコントロールできません」と答える企業が多いのです。株価をコントロールできないのは確かにそうなのですが、「国内の同業他社に比べたら自社は充分利益を上げているので満足しています」とか言われると、それっておかしくないですか! と言いたくなります。国内の同業他社との比較ではなく、自分たちの目標をグローバルベースで比較すべきです、日本の株価はそもそも低いのだから。

――日本とアメリカで比較した場合、企業の責任の取り方についてどのような違いがあると思いますか

日本企業の場合は、マーケットに影響がないとわかれば、よほどのことがない限り、社長は解任されません。一方アメリカだと、例えば業績不振で3期連続赤字だった場合、社外、社内取締役が具申して社長は解任に追い込まれるケースが多いです。私もいくつかの企業の社外取締役をやっていますが、「3期連続赤字だったら辞めてもらった方が良いじゃないか」とはっきり言っています。さらに物言う株主であるアクティビスト投資家たちとコーポレートガバナンスコードに沿って、社外取締役との意見交換の場をつくりました。やっぱり最初に出てくるのが株価低迷や業績不振の問題。そして業績が3期連続赤字の場合は反対票を投じますと明確に言っていました。ただね、思うんですよ、これは社長が辞任すればいいという問題ではなく、取締役会そのものが責任を取らないといけないのではないか、と。

――そのようにオーナーシップを持って社外取締役を務めている方はどのくらいいるのでしょう

それは人によってものすごく違うと思います。投資家のなかには「社外取締役に株を持たせるべきだ」という意見を持つ方もいますが、私は大反対です。それはなぜかと言うと、社外取締役に重要な要素は「独立性と専門性」です。社外取締役が株価を上げるために一生懸命になると独立性が失われてしまいます。社外取締役の役割と責任は、企業価値の向上にどれだけ貢献できるかだと思っています。株価や業績がどれだけアップしたかと、社会においての企業価値は違います。10年後、どのような企業に成長できるか、そのプロセスを執行部に示させることが社外取締役の役割ではないでしょうか。

――日本には歴史の長い伝統的な企業があり、閉鎖的で時代の変化に対応できない部分もあると思いますが、その辺りについてはどう見ていますか

グローバルゼーションが鍵だと思っています。グローバル化とは、自分たちの製品を世界で認めてもらうことです。そのためには日本人だけでなく世界中の人たちと手を取り合って進めることがとても重要です。日本での成功体験を海外でただ繰り返しても新しいビジネスモデルは出てこないわけで、海外企業のノウハウをグローバルベースで展開するなど、やるべきことはまだまだあると思います。

――日本のダイバーシティについてはいかがでしょう

ここ最近、社外取締役に女性が増えているのは顕著ですし、それ自体は良い傾向だと思っています。ですが、取締役や執行役員ではなくて、まずは会社の中で部長や課長なり、管理職のポジションで女性を活発に登用する文化を育てるべきです。ガバナンス対応に追われて「社外取締役にとにかく女性が必要」と探しまわるのはどうかと思います。

先日ニューヨークに行ったときに米人と話をしたのですが、アメリカではジェンダーのダイバーシティは当たり前で、今は専門的な能力を持った人が採用されているかに注目が集まっているそうです。例えばeコマースの会社の取締役にeコマースの専門家がいるか、など、コアな専門性を持ったダイバーシティに移行しつつあると言っていました。もはやダイバーシティはジェンダーだけでは語れないということです。企業というのは社員一人ひとりが、それぞれの役割に対してどれだけプロフェッショナルに動き、社会貢献ができるかだと思います。人事制度や評価制度を抜本的に変えて、プロフェッショナルな仕事で得た社会的貢献と業績連動させた報酬体系にする、そのくらいしないと将来が厳しいように感じています。

――最後に社外取締役の信頼性はどこにあるべきでしょうか

かつてある企業の社外取締役をしていたのですが、その企業は莫大な資金をかけてある新システムをつくっておきながら、投資回収の見込みがないという理由で新システムを稼働する前に全額減損してしまった。問題を徹底追求する姿勢や、深い議論も不要という構えだったので、それであれば本事業を推進した執行部は責任をとって辞めるべきではないのか、と私は言いました。

いろいろな意見の食い違いや考え方の違いはあるにせよ、問題を是正しないカルチャーでは社外取締役は健全に機能しないはずです。「背広の胸のポケットに辞表を忍ばせて取締役会に臨もう」と、よく仲間たちと話すのですが、そのくらいの気概と覚悟がないと、やっぱり正しいことは言えません。企業と社外取締役の双方で、独立性や専門性がいかに重要かを再認識することが必要です。