COLUMN

INTERVIEW

2022.12.19

日本企業に求められる社外取締役との正しい関わり方とは【Vol.2】有意義な議論と革新的なチャレンジ


ガバナンスという言葉が一人歩きし「ルールやコンプライアンスの問題」という理由だけで社外取締役を設置する企業と、それを受ける社外取締役側のマインドについてVol.1では詳しくご紹介しましたが、今回は前例踏襲と忖度という習慣から抜け出せない日本企業の本質的な問題に迫ります。

高橋 勉 氏

公認会計士。1979年11月、オランダに本部を置くKPMGの前身のピート・マーウィック・ミッチェル会計士事務所に入所。2003年からKPMGが提携するあずさ監査法人の代表社員となり、2013年から2018年にはKPMGジャパンチェアマンを歴任する。現在はスカパーJSATホールディングスおよび豊田通商株式会社の社外監査役、みずほ信託銀行の社外取締役を務める。

経営者と社外取締役の有意義な議論の必要性

社外取締役と経営者は有意義な議論に時間を費やすことがまずは必要です。大切なのは「何をもって有意義な時間とするか?」ですが、これを誤解している経営者やマネジメントクラスは少なくありません。例えばさまざまなエビデンスを提示し「この事業を買収したいと考えていますがどうですか?」と質問をしても、恐らく最終的に「NO」と言う社外取締役は少ないでしょう。

そうではなくて、会社の本質的な課題に関する話をすることこそ、会社と社外取締役における有意義な議論だと言えます。例えば「10年後には会社をこういう方向へ持っていきたい…」「ダイバーシティー&インクルージョンを実現するには何が必要か…」「Z世代とのコミュニケーションはどう取ればいいのか…」

など、こうした議論に時間を費やせる会社は、社外取締役の価値を大きく引き出せるようになります。もう1つは、前例踏襲と忖度をやめることです。これは社外取締役との関わり方というよりも、多くの日本企業に根付いた歴史的文化・風土が、ビジネスの成長を阻害している原因になっている可能性が高いという話になります。

カギは前例踏襲と忖度からの脱却

日本は国としてもビジネスとしても過去の歴史的経験から、前例踏襲と忖度という慣習から抜け出せない傾向にあります。何もないところから新しい文化を作るのは簡単だけれど、既存の文化を壊して新しい文化を築くのは相当に難しい。

「変化を恐れる」という心理は、人間も社会全体も1つの生命体と考えれば同じだと思います。だからこそ、今までの日本のシステムを「一度壊した方がよい」と私は考えています。例えば日本の伝統的教育システムの抜本的な見直しもその1つです。

政府は生産性向上や人材確保のためにダイバーシティー&インクルージョンの実現を掲げています。しかし実態として、多様性の大切さや本質というものを新入社員に教えなければいけないのは企業側です。現状の日本企業は、本質的なグローバル視点や環境を持った人材の多い海外企業と戦うことは到底難しいでしょう。

多国籍の先生を受け入れて、子供の頃からダイバーシティー&インクルージョンが当たり前の環境をつくり、国語以外なら、算数だって社会だって英語で教えればいいんです。しかしそのためには、前例踏襲と忖度という習慣から抜け出す必要があります。

会社単位でも同じことが言えますね。前例踏襲と忖度から抜け出せないと革新的なチャレンジができず、結果として社外取締役の価値を最大限引き出せません。積極性のある社外取締役が「こうしましょう!」と言っても、「前例がないから」「社長はやりたがらないと思うな」で終わってしまいます。

こうして考えてみると、社外取締役との関わり方というのは、多くの日本企業が持つ本質的な問題に繋がっていると言えます。

まとめ

「前例踏襲と忖度をやめること」は、日本企業や社外取締役との関わり方だけにとどまらず、社会全体に言えることのように感じました。多国籍の人々を受け入れて、子供の頃からダイバーシティー&インクルージョンが当たり前の環境を整えることは、待ったなしの現状ではないでしょうか。企業側も社外取締役も革新的なチャレンジに踏み込めるよう、我々JSEEDSがお手伝いできるよう邁進していきたいと思います。


*本連載はVol.2で完結です