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2024.01.04

フジテックとオアシスの間で何が起きたのか 社外取締役の責任をめぐって(1/2)


社外取締役は責任を持った意思決定をしているのであろうか。事なかれ主義で、賛成をして来年もまた食っていけるようにしているだけではなかろうか。そんな意見に答えるべく、この記事では、社外取締役の意思決定を追求し退任まで追い込む場面もあった、エレベーター大手フジテックとアクティビストファンドのオアシスが繰り広げた争いについて、2回に分けて振り返ります。

第1回となる今回は創業家出身の社長を解任にまで追い込んだ「物言う株主」の是非について大きな議論を巻き起こした一件について、まずは時系列を追ってまとめていきます。第2回では、これらの騒動の中で社外取締役がどのように動き、どのように責任を問われたのかについてフォーカスを当てて見ていきます。

騒動の概要

今年6月の定時株主総会でフジテックがアクティビストファンドに敗れる形で幕を閉じたこの争いにおいて、何が争点だったのか、株主はどう動いたのかについてまとめていきます。

ひとことで言うと、創業家社長であった内山氏が、アクティビストファンドであるオアシスとガバナンスを巡る争いを行い、最終的に取締役会での力や株主からの信頼を失い、会長職から解任された話となります。

この記事では、最初に時系列順に何が起きたかをまとめ、後でそれぞれについてより詳しく取り上げていきます。なお、中立性を保つ観点から、当記事では出来事を中心にまとめていきます。より詳細な情報については他メディアを参照ください。

時系列順の出来事まとめ

出来事を時系列順にまとめると、以下のようになります。

この中から重大な出来事をまとめていきます。

事の発端;オアシスによるフジテック不正取引の指摘

  • 2022年の5月中旬、オアシスは「PROTECT FUJITEC」というキャンペーンサイトを立ち上げ、内山社長が個人の利益のために権限を濫用しているという指摘を公開。
  • 具体的には、内山社長個人が保有する法人に対してフジテックが貸し付けを行ったこと、内山家が私的利用するための高級マンションをフジテックが取得した疑惑があること、社員に自宅の清掃をさせたことなど複数の要素が挙げられていた。
  • オアシスはいわゆる「物言う株主」として知られるアクティビストファンドであり、2022年5月当時ではフジテックの株式の10%程度を保有していた。株主として、フジテック内の不正を指摘し、改善を求める声明を挙げるという形で争いが始まった。

外部弁護士を雇い、指摘に対して反論を行うフジテック

  • オアシスの指摘に対し、フジテック側は5月末に外部弁護士の行った調査結果を公表し、該当案件について内山氏が非参加の取締役会で決議されていること、監査法人や税務当局からも疑義が呈された事実は認められないことなどを理由に「法的にも、企業統治上も問題ない」との見解を発表。
  • 一方で、オアシスは調査に当たった弁護士に独立性がないと指摘したうえで、「長年にわたり、コーポレート・ガバナンスの原則に反する権限濫用を行ってきた内山社長はフジテックの取締役として不適格」と改めて強調。
  • これに対し議決権行使助言会社であるISSとグラスルイスはオアシス側へつき、社長再任案への反対を推奨。
  • これらの状況を踏まえ、フジテックは第三者委員会を設置して追加の調査を行うと発表。

内山氏再任の取り下げにより直前で土俵を崩された株主総会

  • 内山氏とオアシスの間での争いへの一定の意思表示の場となる株主総会の1時間前にフジテックは内山社長の再任審議を取り下げ、内山氏は信任案で指定されていた代表取締役から外れ取締役でも執行役員でもない「会長」へと就任。
  • これにより株主は内山氏の代表取締役就任への是非を意思表示することができず、内山氏は事実上、実権を握り続けることが可能に。

内山氏の人事案へ賛成した社外取締役の解任案が浮上

  • 株主総会から約半年後、オアシスは株主総会での不適切人事があったにも関わらず、その人事案に賛成した社外取締役のガバナンス機能の不全を指摘し、社外取締役不信任案を提出。
  • オアシスはさらにフジテックに対して臨時株主総会の招集を請求し、既存の社外取締役を務めている6人を解任し、自らが提案する7人の新たな社外取締役を選任することを要求。
  • これに対して、議決権行使会社ISSもオアシスの不信任案に賛成推奨を行った。
  • 一方、フジテック側はオアシス提案の社外取締役が不適格であること(候補者の過去の問題や、複数回の修正があったこと)を理由にこの議案に反対意見を表明。現在の社外取締役6人を維持した上で新たに2人の社外取締役を追加することを提案した。

臨時総会を前に一人の社外取締役が辞任。オアシスが形成逆転

  • 社外取締役の信任を巡った株主の意見が提示される2月の臨時総会を前にし、社外取締役の一人である引頭麻実氏が「ガバナンスに関する考え方がフジテックと大きく異なる」ことを理由に辞任。
  • 辞任の3日後の2月24日に開かれた株主総会では社外取締役3人が解任された上、フジテックが提案していた2名の社外取締役候補はいずれも否決された。一方でオアシスが提案した6人中4人が選任された。フジテック案がすべて可決されていた2022年の8月総会と比べると、オアシスによる提案が株主により大きく支持された。

取締役会で内山氏が解任

  • 過半数は維持したフジテックであったが、オアシス側の社外取締役や取締役への働きかけにより、オアシスが取締役会でも支配力を手にする。
  • 取締役会で内山氏の会長職からの解任案が全会一致で可決される。
  • これを受けて、内山氏はオアシス、社外取締役へ名誉棄損による損害賠償請求を行った。さらに、4月に新しい取締役の選出を中心とする株主提案にでた。オアシス選任の取締役の不適格さを訴えるキャンペーンサイトを創設するなど6月の株主総会へ準備を進めた。
  • この内山氏の提案に対してISSは株主へ反対推奨。

株主の答えはNoとなり、内山氏は追い出される形に

  • 注目の集まった、株主の意思表示の場となる6月の株主総会では内山氏による提案はすべて否決に終わった。
  • どの提案も概ね10%程度の賛成比率であり、これは内山氏及び内山氏周辺の株主の所有する株式比率とほぼ同じであった。

以上のように内山氏の解任で一幕を閉じた争い。次回の記事では、この争いの中で社外取締役がどのように動き、どのように責任を問われたのかについてまとめていきます(次回に続く)。